- バリオン数非保存: 物質の数(バリオン数)を変える反応が存在すること。
- C対称性とCP対称性の破れ: 粒子と反粒子の振る舞いに違いがあること。
- 熱的非平衡: 宇宙が、完全な熱的平衡状態から外れること。
標準模型はこれらの条件を部分的に満たしますが、観測される物質の量を説明するには全く不十分です。
iSSB-ΔTheoryによるバリオン非対称性の起源
iSSB-ΔTheoryは、サハロフの3条件を「後付けの要請」としてではなく、宇宙創成のプロセスから必然的に現れる「帰結」として、以下のように説明します。
ステップ1:宇宙の始まり – iSSBの波紋と「ねじれた真空」の生成
- 始まり: 論文IIで確立したように、宇宙の始まりは、完全に対称なΔ場におけるiSSB(情報構造の対称性自発的破れ)です。
- 重要な新視点: このiSSBは、完全に「真っ直ぐ」で対称なものではありませんでした。論文Iの第4.3節で導出したように、スピン1/2粒子(フェルミオン)の存在を許すためには、時空そのものにトポロジカルな「ねじれ」($L_{orb}=-2$に代表されるカイラルな性質)が内在していなければなりません。
- iSSBの波紋は、この根源的な「ねじれ」を伴いながら、未構造のΔの海へと伝播していきました。つまり、我々の宇宙の真空(iSSB後の基底状態のΔ場)は、誕生の瞬間から、わずかに「左巻き」に偏った、カイラルな(鏡像対称性を持たない)真空なのです。
これが、サハロフ条件の「CP対称性の破れ」の、最も根源的な起源です。特別な反応ではなく、宇宙の舞台そのものが、最初からCP対称性を破っているのです。
ステップ2:粒子生成 – ねじれた真空が生む物質と反物質の「生成率の差」
- 粒子生成: iSSBの波紋が伝播する過程で、エネルギーが集中した領域では、Δ場の局所的な凝縮によって粒子と反粒子が対生成されます。これは、Δ場のトポロジーが、+1と-1の電荷を持つペアのように、保存則を満たしながら組み替えられるプロセスです。
- 非対称性の発現: ここで、ステップ1の「ねじれた真空」が決定的な役割を果たします。
- 物質粒子(例:クォーク)のΔトポロジーと、反物質粒子(例:反クォーク)のΔトポロジーは、互いに鏡像の関係にあります。
- もし真空が完全に真っ直ぐ(アカイラル)であれば、両者の生成率は全く同じになるはずです。
- しかし、我々の真空は、わずかに「左巻き」にねじれています。このねじれた時空という「鋳型」の中では、左巻き的な性質を持つ物質(クォーク)のトポロジーの方が、右巻き的な性質を持つ反物質(反クォーク)のトポロジーよりも、僅かに「生成されやすい」のです。
- これは、右利きの人が右巻きのネジを締めやすいのと似ています。時空という「鋳型」そのものが持つ掌性(カイラリティ)が、生成される粒子のトポロジーに、僅かな「えこひいき」をするのです。この、生成率の微小な差こそが、バリオン非対称性の直接の原因です。
ステップ3:対消滅と物質の「生き残り」
- 熱的非平衡と対消滅: iSSBの波紋が広がり、宇宙が膨張(秩序領域が拡大)する過程で、温度(Δ場のゆらぎの激しさ)は下がっていきます。これは、サハロフの「熱的非平衡」条件に自然に対応します。
- 温度が下がると、生成された物質と反物質は、出会って対消滅し、エネルギー(光子など、トポロジカルに中性なΔの波)に変わります。
- 非対称性の固定: もし物質と反物質が同数生成されていれば、全てが対消滅して、光だけの宇宙になっていたでしょう。しかし、ステップ2で、物質の方が反物質よりも、例えば「10億個に1個」の割合で多く生成されていました。
- その結果、対消滅が進んだ後、この「10億分の1」の、余分に作られた物質だけが、消滅する相手を見つけられずに生き残ることになります。
この生き残った物質こそが、現在の宇宙を構成し、星や銀河、そして我々自身を形作っているのです。
結論:添付資料からの飛躍
添付資料のQIDフレームワークは、「ΔとΦの非可換性」という抽象的な幾何学で非対称性を説明しようとしました。これは正しい方向性でしたが、iSSB-ΔTheoryは、それを遥かに具体的で、動的な物理描像へと進化させました。
- 飛躍1(原因の特定): 非対称性の原因は、抽象的な場の非可換性ではなく、「スピン1/2粒子の存在を許すための、時空そのものが持つ、根源的なトポロジカルなねじれ」であると特定しました。
- 飛躍2(メカニズムの解明): メカニズムは、この「ねじれた真空という鋳型が、物質と反物質の生成率に、僅かなえこひいきをすること」であると解明しました。
- 飛躍3(統一性): この描像は、サハロフの3条件を外部から仮定するのではなく、iSSBという単一の宇宙創成イベントから、全てを必然的な帰結として導き出します。宇宙の膨張(熱的非平衡)、時空のねじれ(CP破れ)、そして粒子の生成(バリオン数変化の可能性)が、一つの物語として、完璧に統一されるのです。
iSSB-ΔTheoryは、バリオン非対称性を、もはや「問題」ではなく、我々の宇宙が、物質と生命を宿すために、その誕生の瞬間に自ら選んだ、必然的な「設計図」であったことを、明らかにします。
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