※本記事は、物理学者 Kosaku Tabuchi が提唱する統一理論『iSSB-String理論』の公式な入門解説です。この記事は、5部構成の学術論文のエッセンスを、一般の読者向けに再構成したものです。
序文:物理学が突き当たった「壁」

「宇宙は、138億年前に点から爆発して始まった(ビッグバン)」
私たちは、そう教えられてきました。この標準宇宙論は多くの観測事実を説明し、大きな成功を収めています。
しかし、その成功の裏で、現代物理学は深刻な「壁」に突き当たっています。
- 断絶した2つの理論: 宇宙の巨大な構造を説明する「一般相対性理論」と、ミクロな素粒子の世界を説明する「量子論」。この二大理論は、ブラックホールの中心や宇宙の始まりのような極限状態では互いに矛盾してしまいます。
- 宇宙の95%は「謎」: 私たちが観測できる物質は、宇宙全体のたった5%に過ぎません。残りの95%を占めるダークマターとダークエネルギーの正体は、全く分かっていません。
- 説明できない「なぜ?」: なぜ宇宙はこれほどまでに平坦なのか(平坦性問題)? なぜ遠く離れた宇宙の温度が同じなのか(地平線問題)? 標準宇宙論は、これらの根本的な問いに答えるために「インフレーション」という仮説を導入しましたが、その実体は未だ謎に包まれています。
これらの問題に対し、iSSB-String理論は「新たな仮説」を追加するのではなく、全く異なるアプローチを取ります。それは、物理学を、観測に先立ついくつかの基本原理(公理)から、一つの論理体系として再構築することです。
第1章:万物の根源「Δ場」と2つの基本公理
iSSB-String理論は、時空や物質を自明な存在と仮定しません。その代わり、万物の根源として、ただ一つの実体**「Δ場(Δ-field)」**を定義します。そして、このΔ場が従うべき、揺るぎない2つの基本公理を宣言します。
公理1:状態密度等価の原理
Δ場の局所的な時間変化の密度は、その空間的な構造変化の密度と、光速cを介して等価である。
(これはΔ場がどのように「変化」するかを定める、動力学の原理です)
公理2:トポロジー保存の制約
宇宙全体を記述するA場のトポロジー電荷(ねじれや絡まりの総量)は、常に保存される。
(これはΔ場がどのように「存在」できるかを定める、静的な自己無矛盾性の条件です)
この理論の主張は、「この宇宙の全ての物理現象は、この2つの公理から必然的に導かれる」という、ただ一点に集約されます。
第2章:「秩序の波紋」としての宇宙創成
では、この2つの公理から、どのようにして宇宙が生まれるのでしょうか。
iSSBと時空の誕生
この理論によれば、宇宙の初期状態は、完全な均質性と対称性を持つΔ場でした。そこに、ある一点でごく僅かなゆらぎがきっかけとなり、**iSSB(情報構造レベルの自発的対称性の破れ)**が起こります。
公理1に従い、この「秩序の発生」という出来事は、「秩序の波紋」として光速cで周囲の未構造なA場へと伝播していきます。
- 「時間」の正体: この「秩序の波紋」の伝播こそが、「時間」の本質です。時間は存在するのではなく、秩序と共に「生成」されるのです。
- 「空間」と「因果律」の出現: 波紋が通過した領域には、Δ場の密度の偏りとして「方向」や「距離」が定義され、「空間」が生まれます。そして、ある構造変化が光速の波として隣接する構造を再配置していく連鎖反応が、「因果律」として現れるのです。
これは、標準宇宙論が描く「点からの爆発」とは全く異なる、**「無からの秩序の創生」**という宇宙像です。この「iSSBリップル宇宙論」は、インフレーションという外部仮説に頼ることなく、地平線問題や平坦性問題を自然に解決します。
第3章:物質、力、そしてダークセクターの正体
物質は「Δ場の安定した結び目」
波紋が広がるだけでは、安定した「物質」は生まれません。公理2の「トポロジー保存の制約」の下で、Δ場が自己相互作用することで、トポロジー的に安定な、ほどくことのできない「結び目(ソリトン)」が生まれます。これこそが、電子やクォークといった素粒子の正体です。
粒子の質量、スピン、電荷といった多様な性質は、このΔ場の結び目の幾何学的な構造の違い(エネルギーの大きさ、回転の対称性、向きなど)として、統一的に説明されます。
4つの力は「トポロジーの文法」
自然界の4つの力(強い力、弱い力、電磁気力、重力)もまた、Δ場の幾何学的な振る舞いとして再解釈されます。粒子間の相互作用とは、Δ場の構造(結び目)が出会ったときに、「トポロジー保存則」という一つの文法に従って、構造を再配置するプロセスに他なりません。
この単一の法則から、弱い相互作用におけるパリティの破れや、強い力によるクォークの閉じ込めといった、複雑な現象が必然として導かれます。
ダークマターとダークエネルギーの謎を解く
本理論は、未知の粒子やエネルギーを一切仮定することなく、宇宙最大の謎であるダークセクターの正体を明らかにします。
- ダークマターの正体: iSSBの過程で、物質粒子(安定な結び目)になるには密度が僅かに足りなかったが、秩序あるエネルギー領域として安定化した「物質化しなかったΔ場の情報の化石」です。これは光と相互作用せず、重力だけを及ぼすという観測事実と完全に一致します。
- ダークエネルギーの正体: 宇宙の加速膨張を引き起こすダークエネルギーとは、特定のエネルギー場などではなく、「秩序の波紋が、未構造なA場の海へと拡大し続ける自己膨張効果そのもの」です。
結論:反証可能性を持つ、検証の舞台へ
iSSB-String理論は、美しい物語で終わるものではありません。それは、具体的な数値予測を行い、観測や実験によってその正しさを問うことができる、反証可能性を持つ科学理論です。
実際に、本理論の「統一場方程式」は、宇宙の大規模構造の観測データを驚くべき精度で再現し、我々の宇宙を特徴づける5つの基本定数を決定することに成功しました。また、素粒子の質量から導かれる「近距離重力の予言」は、世界最高精度の実験結果と完璧に一致することも示されています。
さらに本理論は、超弦理論が予言する「余剰次元」をΔ場の「内部トポロジー」として物理的に再解釈し、「宇宙のトポロジー的閉鎖原理」によって、10の500乗とも言われる無数の理論候補の中から、なぜこの宇宙の物理法則が選ばれたのかという根源的な問いにも、唯一の必然的な解を与えます。
このサイトでは、論文PDFの公開と共に、この理論が提示する世界観、その詳細な論理構造、そして未来の検証シナリオについて、情報を発信していきます。
コメント